(3)木・絃のKOTO
木の材料 木の材料はずばり、桐の木です。中でも、寒い地域で育ったものがいい音を出します。国内では会津地方に育ったものが良いと言われていて、他に広島県の福山産、新潟産、秋田産があります。 だいたい、樹齢30〜60年の木を使いますが、切ってすぐには楽器にできないんです。何十年か雨風にさらし、さらに焼きつけ、それからやっと、楽器にするために加工しはじめる。つまりその木は種として生まれてから楽器になるまでに100年以上経っていたリするのです。何十年も雨曝しにするなんて、なんだか木をいじめているみたいだけど、でも、そうすればそうするだけ鍛えられて、いい音のする楽器になるんだそうです。 |
表面はカーブしていますが、裏板はほとんどまっすぐ。中味はくり抜いてあって空洞です。裏板にはホールが2つあり、そこからも音が出ているんです。もちろん弾いた絃、つまり楽器の上部からも出ていて、そちらの方が音質も音の響きも格段に良いです。
さらにその中、楽器の内側も、とっても重要な場所なんです。ホールから手を突っ込んで触ることもできるその楽器の裏側には、職人技が施されているんです。反響板の役割を果たす「アヤスギ」という彫刻。よくコンサートホールとか、身近にいうと学校の視聴覚室で、部屋の壁がなんだかデコボコしていたと思うのですが、あれと同じように、デコボコした彫刻がKOTOの内部には仕込まれているのです! さらに良い楽器になると、大きい彫りと小さい彫りを交互に施して、よりイイ音がでるようになっています。これを「子持ちアヤスギ」といいます。 「子持ちアヤスギ」 大きい彫と細かい彫があるのが分かりますか? 糸は裏側にまわって、こんなふうになってるんです。 |
これだけ長い長い年数と、大変に手の混んだ作業を経て、やっとやっと楽器になるわけです。学校で使っていたリコーダーのような値段で買えないのも理解して頂けると思います。
目安としては10万円台から、本当に名器というようなものは、何百万円、いくらでもかけようと思えば1千万近くするのも存在します。 近年、学校教材用に合板で作られた、大きさも半分くらいのミニチュアものが売られていますが、確かに数万円で購入できますが、音も全く違うし、「こども銀行」のお札を持ってお買い物に行っちゃった感じというか・・・オススメはデキマセン。 あと数万円プラスすることで、一応最低限のものは購入できるのですから、ミニチュアを2面買うよりは、本物を1面買うことをおすすめします。何度かしかない機会であるのならば特に、教育現場では「本物」を見せるべきだと思います。 |
ところで昔は、KOTOは「竜」に見立てていたんです。今でも楽器のいろんな部分の名前は、竜という字が使われているんですよ! 楽器の頭の部分(よく私の右手の休憩所になる所なんだけど)そこを「竜頭」。 竜頭から糸を出すための13個の小さな丸い穴を「竜眼」。 絃を張るためのちょっと高くなっている部分を「竜角」、同じく尾部にもある高い部分は、これは残念ながら「雲角」っていうのですが、そこは絃のテンションがすごくかかるので、紅木(こうき)という堅い木がつかわれています。 しっぽの部分はそれこそ「竜尾」。裏板にいたっては「竜腹」。ね?かわいい楽器でしょ? 「竜頭」ここは普段はこんなふうに 「クチマエ」と呼ばれる帽子をかぶっています。 高くなっている部分が「竜角」で、 糸がでてきている穴が「竜眼」 |
絃の材料 昔は絹糸を使っていました。今はほとんどが、テトロンという化学繊維です。「糸締め」と呼ばれる絃を張る作業は、職人さんの手作業です。機械は一切使わず、締め棒と呼ばれる棒1本で糸を張ります。緊急の時は私も自分で締めますけど、どうやってあれだけ強く糸を張れるのか。しかも、ちょっと例えはチガウけど、ボーイスカウトとかで習うような(・・・?)特別な糸の結び方によって、留まっているんです。まさに職人技!! 絹糸は、現在でも古典を主にされている方は使っています。なにしろ、絹糸は音がイイ!!ツヤっぽい、って言ったらいいのでしょうか?余韻がなんとも言えないです。タッチ感もぜんぜん違います。ただし、すーぐ切れちゃう!夜のコンサートのために、その日の午後に糸締めを職人さんにお願いしないといけません。それでも、湿気などにも弱いので、演奏中に切れるなんてことも、私も経験してきました。 テトロンはそれに比べると、なんと言っても切れません。もちろん絃はどんな楽器でも消耗品ですから、永遠にというワケにはいきません。やっぱりよく弾きこんでいると、絃も勢いよく消耗します。ピアノの調律と一緒で、趣味でなさる方でも年に1度はメンテナンスということで糸締めしてもらうように、私はアドバイスしています。ちょうど、ピアノの調律と同じくらいの料金でやってもらえますよ! むかしむかしは、絃の張りは今よりものすごくゆるかったそうです。絹糸のせいなのか、技術がまだ発達していなかったのか・・・。だから音もきっと全体に低かったんでしょうね。 昔から伝わってきている曲には、左手で絃を垂直に押し込んで音を高く上げる奏法「押し手」(=チョーキング)で、しかも「かけ押し」というんですが、親指1本分だけで、あたりまえのように1音半上げろって書いてあるのがあります。そんなの、今の技術で糸締めされたお箏では、無理ですっ!!正式な「押し手」(人さし指&中指の共同作業プラス親指)で1音が普通。 超ガンバって1音半ですから・・・。 |